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東京地方裁判所 平成6年(ワ)23981号 判決

第一・第二事件原告

小島和夫

第一事件被告

斉藤利貞

第二事件被告

三井海上火災保険株式会社

主文

一  第一事件被告は、第一、第二事件原告らに対し、それぞれ金二七七四万九七〇七円及びこれらに対する平成六年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第二事件被告は、第一、第二事件原告らに対し、それぞれ金一五〇〇万円及びこれらに対する平成六年一二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  第一、第二事件原告らの第一事件被告に対するその余の請求を、いずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一、第二事件原告らと第一事件被告との間においては、第一、第二事件原告らに生じた費用の一〇分の一を第一、第二事件原告らの負担とし、その余は第一事件被告の負担とし、第一、第二事件原告らと第二事件被告との間においては、全部第二事件被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一第一、第二事件原告ら(以下「原告ら」という。)の請求

一  第一事件

第一事件被告は、原告に対し、それぞれ金二九四七万五〇三二円及びこれらに対する平成六年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第二事件

主文第二項同旨(遅延損害金については、訴状送達の日の翌日である平成六年一二月二〇日から請求)

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

(一) 事故日時 平成五年八月一六日

(二) 事故現場 埼玉県久喜市大字江面一六五七番地二付近道路

(三) 被告車 普通乗用自動車

右運転者 第一事件被告斎藤利貞(以下「被告斎藤」という。)

(四) 沖野車 自動二輪車

右運転車 訴外沖野竜介(以下「訴外沖野」という。)

(五) 事故態様 被告斎藤が、被告車を運転して直進中、本件現場付近が転回禁止であるにもかかわらず、道路分離帯の切れ目から対向車線に転回しようとしたため、折から、訴外亡小島由美子(本件事故当時一六歳、以下「由美子」という。)を後部座席に乗車させ、対向進行してきた、訴外沖野運転の沖野車と衝突し、由美子は脳挫傷の傷害を負い、同月二七日、由美子は、右傷害により死亡した。

2  責任原因

(一) 第一事件

被告斎藤は、本件現場付近が転回禁止であつたから、転回を行なうことなく、仮に転回を行う場合には、対向車の有無及び動静を注視し、その安全を確認して進行すべき注意義務を負つているのに、これを怠り、対向車の有無及び動静を十分に注視しないままに転回をした結果、本件事故を惹起した過失があるので、民法七〇九条により、損害を賠償する義務がある。

(二) 第二事件

訴外沖野は、第二事件被告(以下「被告三井」という。)との間に、平成四年一二月一一日、被告保険自動車を沖野車、保険期間を同日から平成六年一二月一一日までとする自動車損害賠償責任保険契約を締結した。

訴外沖野は、沖野車の保有者であるから、自動車損害賠償保障法三条により損害を賠償する義務があるので、被告三井は、同法一六条一項により、損害賠償額を支払う義務がある。

3  相続

原告らは、由美子の両親であり、各二分の一ずつ、由美子の損害賠償請求権を相続した。

二  争点

被告らは、訴外沖野と由美子がドライブに出かけた後、訴外沖野が、由美子を由美子方まで送る途中に本件事故が起こつたのであり、好意同乗者として損害額を減殺すべきである、また、由美子は、ヘルメツトの装着状況に落ち度が認められるので、過失相殺されるべきである、と主張している。

第三争点に対する判断

争いのない事実の外、乙一ないし六及び弁論の全趣旨によれば、訴外沖野と由美子は幼なじみで、これまでにも由美子は訴外沖野の運転で沖野車の後部座席に同乗して、ドライブなどに出かけていたこと、本件時も、由美子は、沖野車の後部座席に自発的に乗車し、本件事故に遭遇したことが認められるが、由美子が、本件事故に繋がるような無謀な運転を誘発したり、容認していたような事情は認められない。したがつて、本件では、事故の相手方当事者である被告斎藤はもちろん、訴外沖野の責任を基礎とする被告三井についても、好意同乗者として損害額を減殺することは相当ではない。

また、右各証拠によつても、由美子のヘルメツトの装着状況は明確ではなく、かつ、ヘルメツトの装着状況が由美子の死という結果にいかなる影響を与えたかも、証拠上、明確ではないので、本件では、由美子のヘルメツトの装着状況に落ち度が認められるとして過失相殺をすることも相当ではない。

第四損害額の算定

一  由美子の損害

1  治療費 二二二万五一七六円

第一事件の甲七(以下の書証番号の記載は、同様に第一事件の書証番号である)、弁論の全趣旨によれば、由美子は、本件事故後、新井病院に一二日間入院、その間の治療費として二二二万一七六円を要したことが認められる。

2  入院付添費 一四万七三九五円

甲七ないし九、弁論の全趣旨によれば、由美子は、右入院期間中、付添看護を要し、その間、職業付添人を雇い、その費用として一四万七三九五円を支出したことが認められる。

3  逸失利益 三一三九万九四一五円

由美子は、本件事故当時、高校一年在学中の一六歳であつたが、平成八年三月に同高校を卒業する見込みであつたから、一八歳から六七歳にいたるまでの間、賃金センサス平成三年第一巻第一表女子労働者学歴計一八歳の収入一九三万九九〇〇円を下らない収入を得ることができたものと推認するのが合理的である。したがつて、由美子の逸失利益は、一九三万九九〇〇円に、生活費を三〇パーセント控除し、一六歳から六七歳まで五一年間の新ホフマン係数二四・九八四から一六歳から一八歳まで二年間の新ホフマン係数一・八六一を減じた二三・一二三を乗じた額である金三一三九万九四一五円と認められる(原告らの請求どおり)。

193万9,900円×0.7×23.123=3,139万9,415円

4  損害のてん補 二三七万二五七一円

当事者間に争いがない。

5  合計 三一三九万九四一五円

原告ら各人の損害額は、二分の一ずつの各一五六九万九七〇七円となる。

二  原告らの損害

1  葬儀費用 各六〇万円

甲四ないし六によれば、原告らは、葬儀費用等として各一九二万五三二五円を支出していることが認められるが、このうち本件と因果関係の認められるのは一二〇万円と認められる。原告らは、これらの各二分の一を支出しているので、原告ら各人の損害は各六〇万円である。

2  慰謝料 各九〇〇万円

証拠上認められる諸事情に艦みると、本件における原告ら固有の慰謝料は各九〇〇万円が相当と認められる。

3  損害のてん補 各五万円

当事者間に争いがない。

4  弁護士費用 各二五〇万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額その他本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、原告ら各自について金二五〇万円と認められる。

5  合計 各一二〇五万円

三  合計 各二七七四万九七〇七円

以上の次第で、損害額は、原告各人について、各二七七四万九七〇七円となるところ、原告らは、被告三井に対しては、自動車損害賠償責任保障法一六条一項に基づく請求であるので、被告三井に対する請求について認容できる損害額は原告らの請求のとおり、原告ら各自について各一五〇〇万円である。

第五結論

以上のとおり、原告らの被告斎藤に対する請求は、それぞれ金二四七七万九七〇七円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成六年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がなく、被告三井に対する請求は理由がある。

(裁判官 堺充廣)

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